部活は入るべき?灘・東大卒が本音で語るメリット・デメリットと脳科学的根拠

部活動と勉強の両立は、多くの中高生とその保護者が頭を悩ませるテーマだ。
「難関校を目指すなら部活は諦めるべきか」「入ったら勉強時間が削られないか」——そういった相談を、塾を運営している中でも頻繁に受ける。この記事では、私自身の経験と脳科学の知見をもとに、正面から答えたい。
結論:入った方がいい。ただし理由を知ってから選んでほしい
結論から言う。学校のクラブには入った方がいいと思っている。
理由は、学校には2種類の環境があるからだ。設備や教育サービスといった「物的環境」は、塾や独学でも代替できる。しかし「人的環境」——人との関わり、同期との繋がり、OBとのネットワーク——は学校の部活動でしか得られない。この人的環境を最大限に活かすべきだというのが、私の基本的な立場だ。
ただし、「とにかく入れ」とは言わない。どのクラブを選ぶか、どんなペースで関わるかによって、勉強への影響は大きく変わる。その判断材料を、できるだけ具体的に提示したい。
脳科学から見た部活動の価値
心理学者のデシとライアンが提唱した自己決定理論では、人間が主体的に行動し続けるためには「自律性」「有能感」「関係性」の3つが必要だとされている。部活動は、この3つを同時に満たしやすい環境だ。自分で選んで取り組み、技術や知識が上がる実感を得て、仲間とのつながりを育む。この体験が、勉強に対しても好影響を与えることがある。
運動部に関しては、さらに明確な根拠がある。適度な有酸素運動は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の分泌を促す。BDNFは脳の神経細胞の成長と維持に関わり、記憶力・集中力・学習能力の向上と深く結びついている。「運動すると勉強時間が減る」と思われがちだが、適度に運動している人の方が学業成績が良い傾向があることは、複数の研究で示されている。
ただし「適度」という言葉が重要だ。毎日ハードな練習が続く部活では、睡眠不足や慢性疲労が積み重なり、かえって脳の働きを低下させる。部活のせいで睡眠が7時間を下回る状況が続くなら、それは本末転倒だ。
私のエピソード:小学・中学・高校・大学
小学生時代
全員が何かしらのクラブに入る必要があった。自然や実験が好きだったので、理科実験部のようなクラブを選んだ。普通の理科授業に面白さを加えたような内容で、お遊びといえばお遊びだったが、いい先生に恵まれて素直に楽しかった。
中学時代
私立中高一貫校に進んだが、クラブには入らなかった。課題が多すぎてクラブどころではなかったこと、学校もクラブをあまり推奨していなかったことが理由だ。そのぶん勉強に集中した。灘高合格につながったのは、この時期の勉強があったからだと思っている。
高校時代——入って、辞めた
灘高に入学して、最初は数学研究部と生物研究部の両方に入部した。数学と生物が好きだったからだ。
数学研究部は、正直に言うと変態の集まりだった(褒め言葉として使っている)。数学オリンピックの受賞者が多数在籍し、専門書の輪読をしたり、自分で問題を作って部員に解かせたりする。その横でパソコンを使って遊んでいる。それなのに難問をさらりと解いてしまう。灘の中でも最も灘らしい人が集まっているクラブだと感じた。
生物研究部は雰囲気が全然違って、真面目で穏やかだった。定期的に学校脇を流れる住吉川でガサ(水生生物の採集調査)を行う。この川が予想以上の清流で、多様な生き物が暮らしていた。自然好きの私には最高の環境だった。部員たちと3年間を過ごせたら、どんなに楽しかっただろうと今でも思う。
ところが、2〜3ヶ月で両方のクラブを辞めてしまった。理由は3つある。
まず、帰宅時間の問題だ。片道2時間の通学をしていたので、クラブ活動を終えてから帰宅すると20〜21時になってしまう。夕食を食べて、風呂に入ると、もう寝る時間だ。
次に、体力の消耗だ。日没過ぎまで活動して満員電車で2時間かけて帰る。翌朝は5時半起きで、また満員電車が待っている。長続きする体力が残っていなかった。
そして、父との登山だ。候補としてワンダーフォーゲル部も考えたが、週末に長時間電車に乗って出かけることへの体力的・経済的な負担が無視できなかった。当時の私はケチを極めていたので、交通費が決断の壁になった。
高校卒業時、ひどい後悔に襲われた。なぜクラブに入らなかったのか。過ぎたことは取り戻せない。
大学時代——遅れを取り戻す
東大に入学してから、運動部に入部した。毎週土日は欠かさず登山に出かけた。よく体力が持ったと思う。
部活動に入って良かったことは大きく3つだ。世界が広がったこと。組織の論理と動き方に触れたこと。OBとの繋がりが予想以上に強力だったこと。この3つは、独学や授業では絶対に得られない体験だった。
一方、デメリットもあった。学業との両立は難しく、落単する人が後を絶たなかった。留年から精神的に不安定になり、姿を消す人も見た。部活動のデメリットを軽く見てはいけないと、その頃から強く思っている。
灘校の部活・同好会事情
灘校の部活動の特徴は、知的な文化系クラブの充実ぶりだ。一般的な進学校とは明らかに雰囲気が異なる。
運動部では、サッカー部、ラグビー部、剣道部などが活動し、インターハイで実績を持つクラブもある。文化部・同好会では、囲碁・将棋部、ディベート部、クイズ同好会などが全国大会で活躍している。数学研究部、化学研究部、生物研究部のような理系研究クラブも充実している。
アマチュア無線部、クラシック研究部、ESS部、社会科学同好会、書道同好会、少林寺拳法同好会、文芸同好会、グリー部、マジカル同好会、ソフトボール同好会、写真同好会、古典文化同好会、ディベート同好会など、生徒の多様な興味を受け止める同好会群も存在する。
灘校では毎年約1000万円の予算を生徒自身が配分しており、運動部・文化部ともにクラブ活動が活発で、インターハイや科学オリンピックをはじめとして多くの実績を残している。生徒自治の精神が根付いており、クラブ活動は単なる課外活動ではなく、学校文化の核をなしている。
私が在籍していた頃と比べると、同好会の種類はさらに増えているようだ。好きなことを起点に自分たちで活動を立ち上げる文化は、今も変わっていない。
実際に入ってみて言えることがある。灘校の数学研究部に入っていると、受験数学をほとんど勉強しなくても余裕で東大に合格できる。生物研究部も同様だ。勉強と部活を切り離して考える必要はない。むしろ、好きなことを深めるクラブ活動が、受験に直結することもある。
東大で見た「優秀な人」の共通点
東大で出会った人たちを見ると、必ずしも体育会系ばかりではなかった。むしろ、将棋、囲碁、鉄道、天文、プログラミング、数学オリンピック、生物研究——何か一つを深く好きになっている人が多かった。
勉強だけしていた人より、「変な趣味を持っている人」の方が印象に残っている。そういう人は決まって、自分の好きなものについて話すときの目が違う。その熱量が、受験にも研究にも仕事にも、そのまま転用されていく。
部活選びで迷ったら
まずは見学することだ。パンフレットより、実際の雰囲気の方が何倍も大事だ。先輩たちが楽しそうか、自分が居心地よく感じるか、それだけを見てほしい。
週1〜2回のゆるい部活でもいい。毎日活動する必要はない。高校生活は長い。細く長く続けられる方が大事だ。
合わなければ辞めていい。「一度始めたら最後まで続けなければならない」という考え方には賛成しない。高校生活の主役は自分だ。途中で方向転換することも、立派な選択肢だ。ただし私のように、辞めた後に後悔することもある。入る前に、自分が何を求めているかをよく考えてほしい。
もし私がもう一度高校生に戻るなら
かなり迷う。
将棋部、数学研究部、物理研究部、クイズ同好会、ワンダーフォーゲル部、写真部——このあたりは魅力的だ。東大に入ってから、こうした趣味を持っている人と話すのが本当に楽しかった。一生続けられる趣味になる可能性があるという点で、これらのクラブには他にはない価値がある。
もし通学時間が短く、体力に余裕があったなら、生物研究部でガサをしながら3年間を過ごしたかった。住吉川の清流と、そこに集まる仲間たちと。それが私の、叶わなかった高校生活だ。
まとめ
部活に入るかどうかで人生は決まらない。もっと大事なのは、自分が面白いと思えるものを持つことだ。
灘高にも東大にも、世間から見ると変わった人がたくさんいた。しかしそういう人たちは皆、好きなものを持っていた。鉄道でも、将棋でも、数学でも、生き物でもいい。何か一つ、心から夢中になれるものがある。それが高校生活を豊かにし、長い人生を支える財産になる。
部活はその「好きなもの」を見つけ、深める場所として機能する。だから入ってほしい。ただし、部活のために自分を失うなら、それは違う。部活は手段であって、目的ではない。





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