「丸暗記」と「理解の伴う記憶」の使い分け

読者様よりご寄稿いただきました。
こちらに掲載いたします。
事の発端
定期テスト前に、父親である私が息子に対して
「テスト範囲の丸暗記がすべて。極端な話、例えばりんごの絵が何ページに載っていたか?が問われても文句は言えないぞ。東大王みたいなものだ。」
と言ってしまったのである。
私なりの言い訳はある。
繰り返し学習していると、「キーワードが、何ページぐらいかの右のページの上の方に書いてあった」とか、そのレベルまで覚えているものなのだ。
しかし本来なら、「テスト範囲をすべて理解し、出題者側(先生)の立場にたって、記憶すべきものはしっかり記憶しておきましょう。」とでも言うべきだったのかもしれない。
後述しますが、出題者側の意図を汲むことは重要だと考えています。
暗記と理解
Wikipediaには次のように記されています。
理解の伴わない記憶の例
殊更に議論するつもりはありませんが、テストでそっくりそのまま出題されるとわかっているものに関しては、語呂合わせを使ってでも暗記した者が勝者となります。
問題:球体の表面積の公式は何でしょう?
対策:心配あるある
答え:$4\pi r^2$
(https://study-line.com/kukanzu-kyu/)
「丸暗記」と「理解の伴う記憶」の使い分け
では、「丸暗記」と「理解の伴う記憶」をどのように使い分けたら良いのでしょうか?読者様の考えるヒントになることを期待しつつ続けます。
上の説明は、Wipikipediaの文章の一部をコピペしただけなのですが、見るだけなら一瞬です。わざわざ時間をかけて、4つの文章を丸暗記する人はいないでしょうし、$4\pi r^2$を丸暗記するにしても、上記4つの概念を理解していることが大前提なのです。さらに、この公式を勉強している段階であれば、ほとんどの人は、円の面積=$\pi r^2$を理解していることでしょう。

では、$4\pi r^2$の丸暗記であなたの心は満足するでしょうか?(満足するのであれば、話はこれでおしまいです。)
知識の「丸暗記」で良い?
Google検索したらすぐに答えが見つかる小さな知識を「丸暗記」させ解答させることに、出題者は価値を見いだせるのか?
こんなテストがあると面白いと思います。出題者側になって考えてみると良いですが、想像もしなかった解答、舌を巻くような解答がなされて初めて、出題者本人の心が動くわけであり、目先の点数がどうのこうのという話ではありませんが、ある意味、新しい概念を生み出す瞬間なのかもしれません。
球面の表面積
$2\pi r \times 2r=4\pi r^2$
公式の丸暗記で満足できない人は、上記のアルキメデスの説明を、丸暗記ではなく、理解できるように努めましょう。専門的な文章を理解し、自分の言葉で置き換え、お友達に説明できることが目標です。ただし、時間は有限ですので、理解し難い場合、一時的には、理解の保留もありでしょう。
台北101のチューンドマスダンパー
私だったら子供たちにどのように説明するのだろうか、と年末に自問自答していました。アイデアをあたためつつ、大晦日にチューンドマスダンパー という物体をWeb見つけましたので紹介します。

ここでは、「上記文章中の輪切りの鋼板=円柱」と考えてみましょう。以下、球体の表面積の私なりの説明です。
考える球体の半径を$r$とします。
(1)上から観察する→円柱の数によらず、上側の面の面積の合計は$\pi r^2$である。下から観察する
→同様に、下側の面の面積の合計は$\pi r^2$である。
個々の円柱の高さを限りなく小さくして、限りなく円柱の数を増やしいくと、限りなく表面は平滑になり、限りなく球体にに近づくが、変わらず、上側の面の面積の合計は$\pi r^2$のままなのである。

さて、水平方向から観察する側面の面積をどのように攻略するのか?
(2)限りなく球体に近づいた物体を、(限りなく球体であるのであるから、球体そのものだとみなした上で、)90度横に傾け、(1)の逆の工程を辿ると理解できるはずである。個々の円柱の軸を長くし、円柱の数をだんだんと少なくしていくと、球体の表面は粗くなり、チューンドマスダンパー が90度横に傾いた状態になるが、(1)と同様の考え方で、水平方向で観察した場合の面積は$\pi r^2$である。(左右で$2\pi r^2$)
(3)(1)と(2)より、
球体の表面積 $=\pi r^2 \times 4=4\pi r^2$
とみなすことができるだろう。

【余談】人の心を動かす
私の高校時代の話です。
勉強とは関係のない話です。
保健の教科の定期試験で、学年トップが100点、学年2位が99点だったことがあります。具体的に書くと身元がバレるでやめますが、学年トップの女の子は芸術系に進み、99点の男の子は医学部に進みました。両者とも私に近い存在だったので、筆跡を知っているのですが、イメージとしてはこんな感じです。

高校の保健の先生が、右側のような筆跡の男の子が書いた99点の答案を見て、とても悔しがっていました。100点をあげたいぐらいだと。受験勉強の本質的な話でないかもしれませんが、今現在に役に立つとは思えないようなことが、将来役に立つことがあるものです。お医者さんになった今、この几帳面さが、手書きの指示書などの正確さに繋がっているかもしれませんし、ひいては、パラメディカルから信頼されていることでしょう。
ちなみに、息子は、左のような字を書きます。独特な字ではあるけれども、読書感想文を丁寧に仕上げて、その手書きの感想文はその後、審査員にまわされます。それが毎年毎年続くわけです。おっ!この子(読書感想文の審査時は、書き手の名前は伏せてあるはずです)の感想文だぞ!じっくり読んでみよう!となるかもしれませんね。
(補足1)球だけに通用する方法
オリジナルの記事で示した「円柱近似 × 上下・横の観察」の説明は、球という立体であるからこそ成り立つ手法です。他の立体、たとえば円柱や立方体ではこの方法では正しく表面積を導けません。ここで、その理由とともに、球の「完全な対称性」を改めて再確認することが、なぜ肝心なのかを見ておきます。
- 円柱の場合:表面積 $= 2\pi r h + 2\pi r^{2}$
「上下と横の観察を足す」という方法では、側面部分($2\pi r h$)の影響をきちんと捉えられないので、この手法では完全な答えにはならない。 - 立方体でも同様:上下面・横方向面などを見ただけでは側面の全部を補うことは難しい。
- 球の特異性:
- どの方向から見ても外形・輪郭が同じであり(=方向による形の変化がない)、
- 上下・左右どの観察角度でも、「見える部分」と「見えない部分」との関係が同型である、という性質を持っていること。
球面において曲率があらゆる点で一定であるという「完全な対称性」を確認することが、先の円柱近似の議論を正当化する鍵となります。すなわち、ある方向からの投影では寄与が現れない領域も、直交する別方向からの投影においては必ず補われます。両者を組み合わせることで、表面全体の寄与が過不足なく再現されるのです。本補足については、今後、よりわかりやすい説明が可能になった際に更新を行う予定です。
(補足2)Cauchy の表面積定理
さらに言えば、この直感的な説明の背後には、より一般的で厳密な数学理論があります。フランスの数学者オーギュスタン=ルイ・コーシーが証明した「コーシーの表面積定理」です。
あらゆる凸体を任意の方向から平行投影したとき、その投影図の平均面積は、その凸体の表面積の $\frac{1}{4}$ に等しい。
球の場合、この定理は特に美しく成り立ちます。半径 $r$ の球をどの方向に投影しても、必ず面積 $\pi r^{2}$ の円になります。つまり投影面積は一定であり、平均を取る必要すらなく、表面積はその4倍:$4\pi r^{2}$ となります。
参考文献
- Cauchyscher Flächensatz – ドイツ語版 Wikipedia
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